残照身辺雑記

日々の出来ごとや感じたことなどのあれこれを記録します。

読書雑記帳 (3)葬送・日蝕・マチネの終わりに/平野啓一郎

難解と聞く平野啓一郎さんの著作です。三冊を図書館に予約。どんな内容?難解とは?読書新参者には興味深々です。

「ページをめくる手が止まらない」小説ではなく、「ページをめくりたいけどめくりたくない、ずっとその世界に浸りきっていたい」小説。その中で、日常と非日常とが結び合わされる世界が体験されるならば理想的でしょう。小説を読むことでしか得られない精神的な喜びを追求していきたい。

作者は"目指す小説"をこのように述べている。それは読者が願うことでもあるでしょう。そのような小説に出会いたいし、そのように感じたい。

 

葬送(上・下)(平野啓一郎 新潮社2002/8発行):図書館の順番待ちで、「葬送」が最初になった。ショパンの死の直前の3年間を,愛人サンド、友人ドラクロワとの交流を軸に描かれる上下2巻の大部の芸術・伝記・歴史小説です。

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随所で論じられる芸術論は中々難しい。それとは対照的な、俗世的な家族内の確執と破局。そして物語は「死」へと向かって否応なしに進む。

ページを先へと急ぎがちの小生であるが、小説の細密な描写が先を急がせない。ゆっくりと完読した。

 

舞台は、1846年11月から1849年10月のフランスパリ。F.ショパン36歳(1810-1849)、G.サンド42歳(1804-1876)、E.ドラクロワ48歳(1798-1863)。三人の芸術家の対照的な生きざまが描かれる。

主人公たちは、パトロンであった貴族・特権者階層の庇護が失われつつある中を生きる。フランス革命から60年後のことになる。貴族層や特権階級とはどのような存在であったのだろうか?フランスの歴史には不案内な小生には大いなる戸惑いとなった。

 

時代背景を理解できればとフランス革命後をWikipediaで生嚙り。歴史は因果が織りなして紡がれる。その因果は目まぐるしく際限なく奥深い。

 

<以下は、急ぎ理解したフランス革命後の60年。小生なりの独断的超理解です。折角なのでメモ。~小説とは関係ないです。許しあれ!>

 

1789.1.革命前夜;身分と土地を支配する絶対王権のブルボン王朝であったが、18世紀末、過大な戦費や放漫支出などにより、王朝は、財政破綻に瀕していた。

支配層の第一身分(聖職者14万人)・第二身分(宮廷貴族4,000家族/40万人)と被支配層の第三身分(ブルジョア層=小領主/商工業者/金融業者・労働者・農民2,600万人)は、財政の負担を巡って激しく対立していた。第一身分と第二身分には年金支給と免税特権が与えられ、加えて、様々な名目で巨額の国家資金が流入していた。

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<民衆を導く自由の女神> ドラクロワ

1789.1.シェイエスが発表した檄文"第三身分とは何か"がベストセラーになり、彼が主張した「法の下に平等にある国民」の理念が広く流布し、革命の口火となった。 

 

 

1789.7.14.フランス革命勃発、第三身分の「国民議会」が勝利;負担増による破滅を恐れた第三身分は「国民議会」を結成して宮廷貴族に対抗した。対立は武力衝突に至り、1789.7.14.のバスチーユ要塞監獄の占領を機に、国王の軍隊は各地で敗北、国民議会が勝利し、ブルボン王朝は崩壊した。

1791年9月フランス初の1791年憲法が成立;1791年9月3日フランス初となる1791年憲法が成立した。憲法は、立憲君主制、選挙権は租税額による限定選挙制とする急進・反動各派の妥協の産物であった。以後、革命の完全な達成に向け、抗争を繰り返すことになる。

<革命後の激動はまだまだ続きます。Ivent満載!話が長くなるので、ここから先は末尾に続けます・・>;1792年フランス革命戦争1792年8月10日立憲王政廃止・第一共和政の成立・1799年軍事独裁のナポレオン帝政の樹立・1814年ナポレオンの敗戦と没落

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国民議会図書館天井画 ドラクロワ

1815年ブルボン復古王政の成立 

1830.7.七月革命が勃発・オルレアン七月王政の成立 

1848.2.24.2月革命・第二共和政の成立 

1848年11月ルイ・ナポレオン大統領に選出 

1852年12月2日ナポレオン3世皇帝即位・第二帝政・・・

 

 「葬送」の物語は、7月王政の末期1846年11月に始まり、1848.2.24.2月革命を経て1849年10月のショパンの死でクライマックスを迎える。ブルジョア中心の七月王政が1848年二月革命により倒れ、第二共和制に移行する激動の時代である。

  この時期、ショパンは作曲家としての創作活動はない。演奏家としての活動、サンドとの不仲、家族との確執・金銭問題、そして病気との闘い。病弱で繊細なショパンの最晩年と死へ向かう病床が描かれる。

一方のドラクロワは創作への意欲に溢れ、画壇での地位への執着など、ショパンとは対照的な姿が描かれる。7月革命を題材にした有名な絵画「民衆を導く自由の女神」にまつわるエピソードや「国民議会図書館天井画」制作への執念が描かれる。

そして、サンドは臨終に立ち会うこともない。まさしくショパン葬送の物語です。

 

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 日蝕平野啓一郎 新潮社1998/10発行)

 

とても 有名な芥川賞受賞作品です。「葬送」のあとだったのであまり違和感なく読み通しました。難解な言葉と漢字が続出もあまり気にせずに前進。

宗教改革前夜の中世フランス。主人公の若い神学僧が学術書を求めて旅する体験記。

クライマックスの皆既日食の中の魔女の火刑。錬金術の秘法。素晴らしい!

ひたひたと迫る宗教改革の予感。主人公はこの先の嵐の中でどんな運命をたどるのだろうか?

 

 

 マチネの終わりに(平野啓一郎 新潮社2000/5):「葬送」と「日蝕」のあとだったのでどんな物語が飛び出すのかと期待した。

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前2作とは一転。現代におけるすれ違い純愛物語。元祖すれ違い「君の名は」を思った。あくまでも美しい。

天才ギタリストと女性国際ジャーナリスト。余りにも完璧な主人公たち。むしろ脇役の三谷早苗が現実感を伴って光って見えた。

マチネは終わって美しい物語の決着は読者に委ねられる。さて私のソワレは・・・。

 

 

 

 

 

<続きです>

 1792年フランス革命戦争革命の波及を恐れる周辺諸国の干渉を受けて、革命政府はフランス革命戦争に突入した。成立間もない革命政府の基盤は未だ危うかった。危機はナポレオンによって打開され、ナポレオン戦争へと拡大した。

1792年8月10日事件と立憲王政廃止・第一共和政の成立;立憲君主制の王権への反発は強まり、特権廃止・平等主義の要求・王政打倒を求める1792年8月10日事件(宮殿襲撃・国王家逮捕幽閉)が発生。国民公会が王政廃止、共和政が成立した。国王一家の処刑、党派間の抗争と政情は安定せず、遂には、恐怖政治に陥った。

1799年軍事独裁のナポレオン第一帝政の樹立;軍功と世論の支持を背景に、ナポレオンは、クーデターにより統領政府を樹立、自ら第一統領に就任した。さらに、総統府を廃し、帝政を宣言して皇帝に即位軍事独裁ナポレオン第一帝政を開いた。

1814年ナポレオンの没落と1815年ブルボン復古王政の成立;ナポレオンは1814年対大同盟・対ロシアの戦いに敗北し没落。戦勝国は、1815年ブルボン家ルイ18世を国王に復位させた。1815年ナポレオンのエルバ島脱出による三日天下となったが、ワーテルローの決戦は、同盟国の勝利に帰し、ナポレオンは遠島、ブルボン復古王政は維持された。

守旧的な周辺諸国に支援されたブルボン復古王政は極めて反動的であった。貴族・聖職者の優遇、言論の弾圧、旧亡命貴族の保護、旧貴族の革命被害城館の代償の国庫負担など、フランス革命を無視する、極端な反動政策を進められた。市民階級・中産階級は不満が高まり、議会では自由主義勢力が優勢となり、7月革命にいたった。

1830.7.七月命が勃発・オルレアン七月王政の成立;自由主義勢力の議会支配と急進民衆の国王施設の襲撃によって、シャルル10世国王が退位して、15年間のブルボン復古王政が廃され、代わってオルレアン家ルイ・フィリップ国王に推戴された。

七月王政は、富裕層市民が実権を握る典型的なブルジョワ支配体制であった。貴族制の廃止や世襲制の廃止などが実行される一方で、納税額による制限選挙は維持され、選挙権者は全人口の0.6%に過ぎなかった。富裕層が議会を支配した、

折からの産業革命による鉄道建設や大規模工業などの恩恵を受けて、ブルジョア層の経済力はさらに高まった。富裕層への富の集中、贈収賄の横行、特権階級の権力の独占、さらには、密室政治・利権政治へと社会の堕落は著しかった。

一方、労働者は無権利に等しく、産業革命は彼らを抑圧・搾取する形で進行した。不公正への不満と普通選挙を求める声が高まった。さらに、大凶作が欧州を襲った。18年間続いた7月王政は行き詰まった。

1848.2.24.2月革命の勃発・第二共和政の成立;選挙法改正を求める集会に対して、政府が解散命令を出したことから、労働者・農民・学生によるデモ、ストライキが発生、さらには武装蜂起へと発展し、国王ルイ=フィリップが退位、臨時政府が組織された。七月王政は廃止され、1848年憲法が採択され第二共和政に移行した。憲法では大統領制と男子普通選挙制が定められた。

1848年11月大統領選挙により、ナポレオンの甥ルイ=ナポレオン・ボナパルトが圧倒的多数で大統領に選出。1851年12月のクーデター、1852年11月の国民投票を経て、1852年12月2日、皇帝ナポレオン3世として即位;第二帝政が始まった

  

 

大寒初候 今年の冬あれこれ

七十二候が大寒初候「款冬華(ふきのはなさく)」(1/20~1/24頃)になった。

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「款冬」はフキのことでフキノトウが芽吹くころとある。

当地での盛期は2月末から3月初めになる。

写真は2018.3.15.のもの。少し薹(トウ)が立ち始めている。

 

今シーズンは早々に積雪が4日もあって珍しいことだと思っていたが、今度は大寒に入ってから3日連続の雨となった。3日とも終日の雨でこの時期には珍しい。今年の冬はこれから先はどうなるのだろう。

車通勤にとって雪は大敵である。ここ数年ほとんど雪がなかったので冬用タイヤは準備していない。積雪の次第では欠勤である。幸い雪は3回は休日で、心配したのは1日だけで、それも大丈夫ですんだ。

雨の日は、傘を差しながらのWalkingになる。気の滅入ること甚だしい。サボり心が顔を出す。しかし継続が肝要と我慢して出かけて何とか皆勤できている。

同級会の幹事からメールがあって、久しぶりに友人たちとメール交換。話題は、自粛のこと、体調のことなど。本を出版したというのもある。メンバー10人/82歳。文字通り十人十色。人それぞれである。日常が戻っての早い再会を願う。

 

読書雑記帳 (2)怒りの葡萄・赤い月・夜と霧

私が利用している図書館です。自宅から徒歩5分で便利です。読書雑記帳は、独断と超理解による、自分のための、備忘印象メモです:Just to be sure!

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怒りの葡萄」「赤い月」「夜と霧」は、図書館が年末年始の長期休館になるので纏めて借りた本の中の3冊です。共通するところがあるので一緒に取り上げます。

どれも有名な大ベストセラーだけに素晴らしかったです。「怒りの葡萄」は先入観がなかったこともあって、とても興味深くかつ印象深く読みました。

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怒りの葡萄(J・スタインベック新潮文庫:超有名な米国文学作品。著者はピューリツアー賞・ノーベル文学賞の受賞者。

1930年代初頭のオクラホマ旱魃と砂嵐による農地の荒廃と大資本による農地の買収と大規模化が進み、伝統的な家族経営の農家は苦境に陥っていた。

自活の基盤を失った主人公一家は、伝来の土地を見限って、新天地カリフォルニアを目指すことになる。家族の長老を次々に失うなど、貧困の中、過酷な極限の旅の末、辛うじて辿り着いたカリフォルニアは・・・。

自然の猛威と近代化の波に翻弄されて流浪する、数十万ともいう、農民の苦難を描いた本作は、その強烈なメッセージ性によって、全米に大論争を巻き起こしたという。作品には、旧約聖書の物語が底流するのだが、特に、有名な印象的なラストシーンなど、残念ながら、自分にはその理解は朧げであった。

赤い月(なかにし礼岩波現代文庫:有名作詞家の著作。実体験をもとにした自伝的小説。作者は「書かずにはいられなかった」との言を残した。作品に込められた「国家の理不尽への怒り」「力強く生きた母へのオマージュ」がその思いなのだろうか。

満州に新天地を目指した貧しい夫婦が、その地に築き上げた一代の栄華。敗戦による一瞬の瓦解。そして混乱の中の逃避行を描く。崩壊が始まった日、妻は、夫と離れたまま一人困難に直面する。そして、幼い姉弟を伴って、過酷な逃避行を生き抜く。

砂上の王国であった旧満州国と、その砂上に築かれた自らの出自である楼閣。その崩落のさまを作者は厳しく見つめる。対比するかのように、奔放さと力強さに溢れ、そして自由の人である妻、即ち著者の母、が描かれる。

著者は私の8ヶ月年長である。私の敗戦の記憶は僅かである。本書を読んで、その日を境に一転した運命のことを思った。悲しみ、苦しみ、そして無言の献身。それは漏らされることなく、微かな記憶でしかない。私はそれを理解しないままだ。

夜と霧(E・フランクルみすず書房:本書は、原題の「強制収容所における一心理学者の体験」の通り、心理学者のフランクルが、自身の収容所での実体験を記述したものである。フランクルは、収容の時点で、すでに、心理学の学問的な知見・理論を有しており、収容所はそれを検証する場であったとされる。

収容、労役、そして解放までの日々が記述される。残虐・陰惨なシーンや、加害者に対する告発などを想像しがちであるが、それらは稀で、多くは、極限の状況におかれた収容者の心理の観察と考察に向けられる。心理学者による、冷静、客観的な記述はかえって恐怖である。

そこでは、肉体の存在の意味は、労働を提供する「もの」としてのみ認められる。最低限の衣食住が与えられ、最大限の労働力の供出が求められる。投入は劣悪・極小にとどめられ、出力の要求は過酷である。入出力の効率が判定され、不良とされる者は、直ちに、死へと選別される。収容者は死と隣り合わせの極限を生かされた。

収容者の心理や、自身の体験が語られる。自身が心理カウンセラーに任じられ、自死を防ぐために行ったカウンセリングのことを紹介している; 彼は説くー絶望の中で生きることの目的は「未来への希望」のためである。なぜなら、未来は未知であり絶望と決まったものではないから。また、ある時はー生きる支えになるものは「生きることの可能性への希望」である。希望を失うと、身体は死に向かい、あたかも免疫力が消滅するかのように命が消えていく。・・さまざまな議論・・・。そして解放の時を迎える。

 三つの物語は人が極限を生き抜く物語である。主人公たちは、それぞれが直面した状況を生き抜く。フランクルは、のちに、その体験と考察から「ロゴ・セラピー(生きるための心理療法)」と称する心理学を提唱した。それはまた、「逆境の心理学」とも呼ばれる。フランクルは、フロイトユングアドラーに次ぐ現代心理学の第4の巨頭とされています。

 さて、我々の未来には「 生きる可能性のない未来」即ち、死が待ち受けている。それはすべての人に訪れ、すべての人はそれを超えていく。超えたその先は・・・?

 

読書雑記帳 (1)ニューノーマル

読書の時間が急増した。 Covid-19の出現によって、当たり前であった日常が、ウイルスとの隔離性という、思いもよらない視点で選別されることになった。不都合なものは排斥され、そうでないものは維持・選好される。かくして新たな日常「ニューノーマル」が生じた。「読書時間の急増」は私の「ニューノーマル」である。

読書は嫌いではないが、偏食が著しい。ビジネス・専門・科学・歴史など教養・実用・ノンフィクションに偏重している。それも現役時代のことで、今ではポツリぽつりになっている。文学・小説の類は猶更のことで縁遠い。年を取ると大抵のことには驚かないし感受性も劣化している(そのくせ涙腺は緩い)。記憶力も大切である。読んだ先から忘れてしまうので大変である。こんなことで読書を楽しめるだろうか心配である。偏食も身体によくないだろう。改善したい気持ちもある。

 

ということで、半年前になるが、これではならじと、コロナ自粛を好機に、日本文学の再読を始めた。手元の新潮の全集から手あたり次第。「砂の女」「城崎にて」「斜陽」「人間失格」「金閣寺」「仮面の告白」「雪国」「山の音」・・・。

 
Q:いずれの作品も日本文学の最高峰という。しかしながら、残念なことに、自分の心に訴えてくるものがない。作家は思いや風景を文字に託している。どう読んだらいいのだろう。美意識や問題意識にズレがあるということか・・。単なる理解力の問題なのか・・。はたまた理系の価値観に浸かり切ったせい?
 
A:多分読んでいる本が時代に或いは読み手の要望にマッチしていないからだと思うよ。「砂の女」は別として、志賀直哉三島由紀夫はとても退屈です。川端康成も同じかも。いまさら「人間失格」を読んでもねー。とは妹からのコメント。賢くて優しい!
 
 コメントに納得。本との出会いを求めることが肝心と理解して、取あえず拘りなく色々と読むことにした。結果、読書時間が急増。役に立つ読書から楽しむ読書へ意識が少し変わった気もする。「読書雑記帳」の記事タイトルで読書記録をつけることにした。