残照身辺雑記

日々の出来ごとや感じたことなどのあれこれを記録します。

読書雑記帳 (2)怒りの葡萄・赤い月・夜と霧

私が利用している図書館です。自宅から徒歩5分で便利です。読書雑記帳は、独断と超理解による、自分のための、備忘印象メモです:Just to be sure!

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怒りの葡萄」「赤い月」「夜と霧」は、図書館が年末年始の長期休館になるので纏めて借りた本の中の3冊です。共通するところがあるので一緒に取り上げます。

どれも有名な大ベストセラーだけに素晴らしかったです。「怒りの葡萄」は先入観がなかったこともあって、とても興味深くかつ印象深く読みました。

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怒りの葡萄(J・スタインベック新潮文庫:超有名な米国文学作品。著者はピューリツアー賞・ノーベル文学賞の受賞者。

1930年代初頭のオクラホマ旱魃と砂嵐による農地の荒廃と大資本による農地の買収と大規模化が進み、伝統的な家族経営の農家は苦境に陥っていた。

自活の基盤を失った主人公一家は、伝来の土地を見限って、新天地カリフォルニアを目指すことになる。家族の長老を次々に失うなど、貧困の中、過酷な極限の旅の末、辛うじて辿り着いたカリフォルニアは・・・。

自然の猛威と近代化の波に翻弄されて流浪する、数十万ともいう、農民の苦難を描いた本作は、その強烈なメッセージ性によって、全米に大論争を巻き起こしたという。作品には、旧約聖書の物語が底流するのだが、特に、有名な印象的なラストシーンなど、残念ながら、自分にはその理解は朧げであった。

赤い月(なかにし礼岩波現代文庫:有名作詞家の著作。実体験をもとにした自伝的小説。作者は「書かずにはいられなかった」との言を残した。作品に込められた「国家の理不尽への怒り」「力強く生きた母へのオマージュ」がその思いなのだろうか。

満州に新天地を目指した貧しい夫婦が、その地に築き上げた一代の栄華。敗戦による一瞬の瓦解。そして混乱の中の逃避行を描く。崩壊が始まった日、妻は、夫と離れたまま一人困難に直面する。そして、幼い姉弟を伴って、過酷な逃避行を生き抜く。

砂上の王国であった旧満州国と、その砂上に築かれた自らの出自である楼閣。その崩落のさまを作者は厳しく見つめる。対比するかのように、奔放さと力強さに溢れ、そして自由の人である妻、即ち著者の母、が描かれる。

著者は私の8ヶ月年長である。私の敗戦の記憶は僅かである。本書を読んで、その日を境に一転した運命のことを思った。悲しみ、苦しみ、そして無言の献身。それは漏らされることなく、微かな記憶でしかない。私はそれを理解しないままだ。

夜と霧(E・フランクルみすず書房:本書は、原題の「強制収容所における一心理学者の体験」の通り、心理学者のフランクルが、自身の収容所での実体験を記述したものである。フランクルは、収容の時点で、すでに、心理学の学問的な知見・理論を有しており、収容所はそれを検証する場であったとされる。

収容、労役、そして解放までの日々が記述される。残虐・陰惨なシーンや、加害者に対する告発などを想像しがちであるが、それらは稀で、多くは、極限の状況におかれた収容者の心理の観察と考察に向けられる。心理学者による、冷静、客観的な記述はかえって恐怖である。

そこでは、肉体の存在の意味は、労働を提供する「もの」としてのみ認められる。最低限の衣食住が与えられ、最大限の労働力の供出が求められる。投入は劣悪・極小にとどめられ、出力の要求は過酷である。入出力の効率が判定され、不良とされる者は、直ちに、死へと選別される。収容者は死と隣り合わせの極限を生かされた。

収容者の心理や、自身の体験が語られる。自身が心理カウンセラーに任じられ、自死を防ぐために行ったカウンセリングのことを紹介している; 彼は説くー絶望の中で生きることの目的は「未来への希望」のためである。なぜなら、未来は未知であり絶望と決まったものではないから。また、ある時はー生きる支えになるものは「生きることの可能性への希望」である。希望を失うと、身体は死に向かい、あたかも免疫力が消滅するかのように命が消えていく。・・さまざまな議論・・・。そして解放の時を迎える。

 三つの物語は人が極限を生き抜く物語である。主人公たちは、それぞれが直面した状況を生き抜く。フランクルは、のちに、その体験と考察から「ロゴ・セラピー(生きるための心理療法)」と称する心理学を提唱した。それはまた、「逆境の心理学」とも呼ばれる。フランクルは、フロイトユングアドラーに次ぐ現代心理学の第4の巨頭とされています。

 さて、我々の未来には「 生きる可能性のない未来」即ち、死が待ち受けている。それはすべての人に訪れ、すべての人はそれを超えていく。超えたその先は・・・?