残照身辺雑記

日々の出来ごとや感じたことなどのあれこれを記録します。

読書雑記帳 (4)蛍川・青が散る/宮本輝

人気の作家宮本輝。小説の類は苦手の小生ですが、流石にいくつかは読んでいる。「蛍川」と「青が散る」は特に印象深い作品です。「蛍川」は私のふるさと富山が舞台。「青が散る」は自分も経験した学生時代の運動部が舞台。ということでとても身近に感じる2作品です。

蛍川(宮本輝全集 第1巻/新潮社刊):

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脱稿までに10数回も一から書き直したという作家の強い思いが込められた作品。芥川賞受賞作。

美しくそして厳しい富山の風土を背景に、3学年への進級を控えた中学生竜夫と彼を取り巻く人々が描かれる。

祖父、父、叔父、母、親友そして幼なじみの同級生英子。登場する人物達のプロフィルがエピソードとともに濃厚に凝縮されて展開される。

そして物語は、蛍の大発生のクライマックスに向かう。4月に大雪のあった年に蛍が大発生すると祖父から聞かされていた竜夫は、それを心待ちにしていたのだ。

今年こそはその年と確信した竜夫は、祖父を道案内に、母と英子を誘って、夕暮れの中を出発する。歩き続けるが蛍は中々現れない。期待と緊張が途切れかかる。諦めかけたそのとき、突然、点滅しながら川面にうねる蛍の光る塊に遭遇する・・・・・。

作家はその光景を鮮やかに描く;・・それは期待通りの壮麗さであったが、各々が思い描いたものではなかった。華やかな光の饗宴とは異なる死の静寂を放つ光の塊であり、それは英子の全身に張り付いて、その身体を光にして浮かび上がらせる。蛍たちの狂おしいまでの生と死の乱舞を描いて物語を閉じる。

作者は昭和31年4月から翌年の3月までの1年間を両親とともに富山市で過ごしている。10歳のころになる。そして蛍の乱舞は、また、竜夫が母と共に富山を去り大阪へ移り住むことを決定づける。作者自身の経験を重ねているのだろうか。

 

  青が散る宮本輝全集 第2巻/新潮社刊):

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芥川賞受賞後の第一作。新設の大学に入学してテニス部で出会った若者たちが繰り広げる青春ドラマ。

青が散る」に象徴される青葉の時代の出会いと挫折が描かれる。

運命に導かれて一つの学び舎に集い、同じサークルで出会う。

「散る」もあれば「結ぶ」もあるだろう。

挫折に終わる青葉の時代であれ精一杯に生きようと呼び掛けている。

誰かが、この本を同時代に読んでいたらよかったのに、と読後感で書いていた。誰しも抱く思いであろう。

作者はあとがきで「私はただ単純に、自分の心に刻まれた陽光の中の青春というものを、何かの物語に託して残しておきたいと思いました。」と述べている。

物語は、誰もが過ごした青春を、切なく愛おしく思い起こさせる。挫折であれ、希望であれ、悔恨であれ、今はそれをありのままに受け入れるしかない。