残照身辺雑記

日々の出来ごとや感じたことなどのあれこれを記録します。

読書感想 "ホモ・デウス (上) (下)"Y.N.ハラリ著  世の中何か納得できないなあ--と感じている人に

世界的ベストセラー「サピエンス全史」の続編 "ホモ・デウス"を読んだ。「全史」の方は読んでいないが、続編だけでも、内容は人類の過去から始まって未来が語られているので大丈夫。ただ「全史」もそのうち読んでみようという気にはなった。

本書は、人類が辿ってきた歴史の本質を明らかにして、その帰結から人類の未来を予測するというものです。難しそうな内容ですが、語り口は平易で、とても明快でわかりやすい。今日までの人類の歴史についての認識と、世の中の理解についての新しい概念と視点を与えてくれます。そして、生命科学とAIの進歩の行き着く先が論じられます。

著者は、キリスト教など宗教的な背景のある人が、本書が主張する機械論的な世界観を受容できるように、意を払っているが、無宗教の私(=日本人)には無用な心配という感じ。個の人間の限界を悟るという意味でむしろ慰めと癒し、あるいは我々の自然信仰への拠りどころを与えてくれるようにも感じた。

著者によれば、生物あるいは人の本質は"アルゴリズム"であるという。即ち、脳内で働く電気信号とその経路と演算手順のみが人の本質であり認識を与える。このことは既に生命科学の研究成果として明らかになりつつあるという。他方、著者は、魂が実在するという一方の教義と格闘している。私には魂へのこだわりが理解できないが・・。

従って、人間が現実であると認識する世界は"アルゴリズム"そのものである。即ち、現実世界は電気信号が描く"虚構"である。"虚構"は"進化圧"の作用でさまざまの形に構築されてきた。"進化圧"の作用によって変化してきた"虚構のWeb"の変遷が人類の歴史の本質ということになる。

"虚構のWeb"とは社会システム、社会の規範、宗教、資本主義、自由主義など人類が集団として承認してきたすべてのことということになる。

アルゴリズム"は本質的には、生物としての限界を越えて進化することができる。高度な知能を備えた"アルゴリズム"が我々自身より我々のことを知るようになるかもしれない。その時、社会や政治や日常生活はどうなるのか?生き物は本当に"アルゴリズム"にすぎないのか?著者は、自身へのあるいは読者への、この二つの問いかけで本書を締めくくっている。

歴史認識についての新しい視点、脳科学の現実、広範な知的な刺激など、大いに楽しめる内容が満載です。世の中何か納得できないなあ--と感じている人に お勧めです。著者は、支配階級の人間が不老不死を獲得して超人へと進化すること、進化したアルゴリズムAIと超人との対決、更には、究極には全宇宙をAIが支配するなど、理解と想像を越えた壮大な歴史の展望を語っています。納得するかしないかは読者次第です。

筆者が語る物語は進化の必然なのでしょうか?進化をもたらす"進化圧"のエネルギーとは何なのか?そしてそのエネルギーには限界はないのだろうか?かくして"進化圧"は直接"虚構"に働きかけ、そして"虚構"は自身を認識する者がいなくなった世界で更に進化を続ける。

afterglow0315.hatenadiary.jp